持ち物の数が増えるにつれ、それらが時に私を所有しているかのように感じる──そんな年齢になりました。本来喜びをもたらすはずのものが、むしろ負担になることもある。だからこそ私は、何が本当に喜びを与え、何を心から大切に思うのかを考えるようになっています。幸運なことに私は自分のブランドを持ち、世界最高の職人たちと共に仕事をしています。しかし「消費者である」という本質は誰にとっても同じです。規模の違いはあっても、少しのストア哲学と「良心的に消費する」姿勢は誰にとっても大切だと思うのです。
私はジェイ・ギャツビーではありません。絹のシャツを大理石の床に投げ散らすような生活ではない。けれど、必要以上に多くの服を所有してしまったのは事実です。その中から何を手放し、何を残すかを考える過程で、自分にとって「価値」とは何かを見つめ直すようになりました。以下は私自身の考えですが、誰にとっても「必要と不要の境界」をどう渡るかは人生の課題だと思います。その中で得た気づきを少し記してみます。
まず第一の、そして黄金律と呼べるのは──「犠牲が価値を生む」ということです。これまで本当に大切にしてきたものや人間関係は、必ず何らかの犠牲を伴っていました。苦労して得たものほど簡単には手放さないし、犠牲を払って得た所有物ほど丁寧に扱い、結果として一番の喜びをもたらしてくれるのです。
私は基本的に「セール」で買い物をしません。人を責める気はありませんが、自分の作るものも安売りはしないと決めています。ものには正当な価格があり、その価格が少し背伸びを必要とするからこそ、購入には熟慮と時間と努力が伴う。その投資があるからこそ価値が宿るのです。逆に、労力も出費もなく簡単に手に入るものは、忘れ去られ、軽んじられやすい。
実際、値札に「30％オフ」と書かれているだけで、その服はどこかで価値を失ってしまう。たとえ物として完璧でも「簡単に手に入ったもの」として記憶から消えやすく、捨てられやすいのです。
私が本当に手放したくない服には共通点があります。それはどれも犠牲を払って手に入れたものだということ。人間関係への投資、プロセスにかけた時間、迷いながらも納得して払った価格──それらが積み重なって「大切な一着」となる。だからこそ、オーダーメイドのジャケットと、穿き込んだお気に入りのジーンズは同じクラスに属しているのです。私のワードローブの中で神聖な位置を占め、最後まで手元に残るものたちです。
オーダーメイドのジャケットには、その高価さ以上の価値があります。セールで買うことはできず、ただお金を払うだけでは手に入りません。まずは「何がその服を優れたものにしているのか」を理解する必要があり、それが最初のハードルとなります。
次に必要なのは、仕立て職人や靴職人といった作り手との関係を築くこと。互いに理解を深めるほど、出来上がる服は良くなっていきます。2着目は1着目を超え、さらにその先も。職人は「あなたのために」つくり、あなたを知るほど仕上がりは良くなるのです。
さらにフィッティングを重ね、修正を繰り返す過程で、服は顧客に近づき、顧客もまたその服にふさわしい人へと近づいていく。どんな富豪であっても、初回の注文で最高の服を得ることはできません。作り手と共に時間を重ねた人だけが、その域に到達できるのです。
そうして完成した服を受け取る瞬間には、儀式のような重みがあります。職人が手渡し、フィットを確認し、それが自分と彼らの代表であることを保証してくれる。その服は彼らの手から、私の手へと託されるのです。
「所有物はやがて所有者を縛る」と言われますが、それは真実でしょう。だからこそ、所有するものは喜びを与えるべきであり、私たちをより良い人間にするものであるべきです。物が溢れる世界の中で、私は自分が生み出すすべてが、最後まで喜びを与えられるものであることを願っています。
これが私にとっての「価値のつくり方」です。